基本的に木村とすること自体が面倒なので、極力その方面は避けたい。
それに対し木村は機会があらば、という体制で臨んでいる。
唯でさえ昨日したばかりなので当分は…と思っていたのにこうも二人きりの状況下を作られてしまうと、逃げられないばかりか、木村を付け上がらせる原因となる。
叱れば簡単には手を出してこなくなる。
しかし、前にも称えたように、基本的に怒られる原因を自分とは思わない人種に怒っても泣きっ面に蜂とでも言うのだろうか。いや、それ以上に性質が悪い。
何度か怒るうちにその人種だという諦めをしてしまって、叱らなくなった。
どちらかというとその原因を避けるようになった。
触らぬ神に祟りなし、というわけだ。
酒も深くなり、飲んでいたらいつのまにか止まる駅もなくなっており、すっかり真っ暗な道を走っていた。
「…でっていうことなんですよぉ。 鈴木さぁん聞いてます??」
「はいはい聞いてるよ」
「えーじゃあ今何の話してましたかぁ?」
既に木村は出来上がって来たようで、先ほどから呂律が回っておらず、ふらふらしながら鈴木を指差す。
思考もあまり働いておらず、先ほどからこの寝台特急のチケットを手配するのが大変やら何やらと同じ話を繰り返している。
この調子だとしなくて済みそうだな、と過ぎった鈴木はウィスキーを木村のコップに注いでやる。
ロックで楽しむ酒を注がれた瞬間に、一気に飲み干す。そして鈴木に、コップを差し出した。どうやら酒の度数も考えないほど、酔ってきたらしい。
「だから…つまりですねぇ…」
そのチケットの話が4回を回ったときに、木村がつぶれた。
そのうち一緒に寝るから、と木村だけベッドに寝かせて、そのまま意識が無くなったらしい。今では気持ちよさそうな寝息を立てていた。
まるで手のかかる子供のよう、というのは美化しすぎだろうな、と一瞬考えた。
木村も酒が弱いわけでは決して無いのだが、少し酔って来ると加減がわからなくなる性質なので、そこに鈴木が酒を飲むように進めればあっという間に出来上がるというものだ。
(しかし、この手法はたまに通じない)
木村を寝かしつけてから暫くは、テレビを付けて情報番組をだらだらとソファーに腰掛けてみていた。
しかしそれも飽きてしまい、テレビを消してから、酒を一人で飲みなおした。
その時、急に明るくなり、青森駅に着いたというのがわかった。
どうやらここからは進行方向が変わるようで、三面ガラスの向こうに先頭車両がくっついて、その車両が明かりを煌々と照らし出す。
珍しいものを見た気分にはなったが、眩しさに飽きて三面ガラスのカーテンを閉めて、ベッドの脇の小さな小窓から外を眺めた。
どうやら現在、トンネル内を走ってるらしい。

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