はっきり言って木村とした事によって鈴木の気が紛れたのは確かだが。
「…」
「…」
目覚めは最悪だった。
なんだかんだと木村としていたので色々と考えなくて済んだものの、行為が終わって直ぐ眠りに付く間もなく、5:00着の函館についてしまった。
お互い大して眠ってもいないのに、函館に到着するという放送を聴いて急いで起きて、慌てて荷物を持って外に出た。
終わったのが3:30だとしても一時間寝たか寝てないかの瀬戸際だった挙句、昨日と今日二日間もその方面で体を使ったせいで体が大分辛い。
それは木村も同じのようで、いつもより大きなクマを作って眠そうな顔でタバコをくわえてる。灰を落とすのも面倒そうである。
この後に駅のホームでどうやら下っ端が出迎えてくれるらしい。
目的地まで移動してくれるのは大変ありがたいことであるが、はてこの状況をどう説明しようか少し考える。
女がいないのに男二人きりでハネムーン列車に乗りました、なんてどう聞いたって状況が普通でないのは確かである。
組長からの紹介の手前、粗相の無いようにしたいのだが、端からどう弁解すれば誤解しそうな状況を逃れられるか考えているが、まともに思考が働かない。
まあその時はその時で臨機応変に話を変えるなりなんなりすればいい。
だが
「…木村くん」
「…はい?」
「…最悪だわ」
元はといえば、そのハネムーン列車で来て誤解を受ける状況を作ったのも、はたまた宝町の事を考えて気分が優れないのもそもそもこの列車に乗せた奴のせいである。
「…ですね。結構朝までしましたもんね」
クマの作った顔で満足そうに口の端を上げる。話がかみ合ってない。そうではない。
それを訂正しようと一言口を開いたとき
「おはようございます!!!!!」
と耳を劈くばかりの声が響く。思わず、片耳を塞いでしまった。(木村も同じような反応をしていたのが横目で見える)
声をかけて来たのはどうみても田舎者の特徴的な、それでいて同じ生業の人間と思われる男が数人立っていた。どうやら彼らは組長の親友の下っ端らしい。
お待ちしておりました、とか親父から良く聞いてます、とか朝から聞きたくも無い大きな声で話されて少々鬱陶しい。
「…わざわざご苦労さんなこったぁ」
ちいさな声でポツリと呟いた。
とにもかくにも原因を作った奴の待遇は後々にゆっくりと考えることにしようと思いながら、列車を後にした鈴木達であった。
end

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